消防用設備等は、火災が発生した場合に被害を最小限に抑え、建物内の人が安全かつ確実に避難するために欠かせない設備です。消防用設備等に故障やトラブルが発生すると、建物内にいる人の命にかかわるだけでなく、その建物だけでなく近隣の建物へも被害が拡大する恐れもあります。
そのため、リスクやトラブル発生時の対処法を整えておくことが必要です。
消防用設備等とは?
消防用設備等とは、消防法及び関係法令で規定する「消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設」の総称をいいます。
消防設備と呼ばれることもあります。
消防用設備等は、火災による被害を最小限に抑えるための消火、避難、その他の消防の活動において必要不可欠な設備です。
これらの設備が正常に機能するよう、防火対象物の関係者は消防用設備等について規定に従って適切に設置、及び維持しなければなりません。
消防用設備等の種類
消防用設備等には次の3種類あります。
消防の用に供する設備
消防用水
消火活動上に必要な施設
ここでは、それぞれの設備について詳しく解説します。
消防の用に供する設備
消防の用に供する設備には「消火設備」「警報設備」「避難設備」の3つがあります。
消火設備とは、火災が発生した場合の消火活動に用いられる設備の総称をいいます
消防設備の1つで、消防法により建物の用途・規模に応じて設置し、定期的に点検することが義務付けられています。
消火器及び簡易消火用具(水バケツ、水槽、乾燥砂等)
屋内消火栓設備
スプリンクラー設備
水噴霧消火設備
泡消火設備
不活性ガス消火設備
ハロゲン化物消火設備
粉末消火設備
屋外消火栓設備
動力消防ポンプ設備
警報設備
警報設備とは、火災が発生した場合に熱や煙等を感知し、建物内の人に発生の旨を知らせて避難へ誘導する設備の総称をいいます。
警報設備には次のものが該当します。
自動火災報知設備
ガス漏れ火災警報設備
漏電火災警報器
消防機関へ通報する火災報知設備
非常警報器具(非常ベル、自動式サイレン、放送設備)
住宅用火災警報器
※住宅用火災警報器の設置基準については各市町村により規定されています。
避難設備
避難設備とは、火災等の災害発生時に、建物内の人が避難するために用いられる設備の総称をいいます。
避難設備には次のものが該当します。
避難器具(すべりだい、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋、その他の避難器具等)
誘導灯及び誘導標識
消防用水
消防用水とは、消火活動に必要となる水を確保している防火水槽や貯水池等、消防用の水の供給設備である消防水利のことです。
消防用水は、敷地内の建物、もしくは近隣する建物の火災を消火する目的で設置されています。
消火活動上必要な施設
消火活動上必要な施設とは、火災発生時に消防隊による消火活動に用いられる施設のことをいいます。
消火活動上必要な施設は次のものが該当します。
排煙設備
連結散水設備
連結送水管
非常コンセント設備
無線通信補助設備
消防用設備等の交換時期目安
消防用設備等には交換時期の目安がありますが、種類やメーカー、設置環境によってそれぞれ耐用年数が異なるため注意しましょう。
なお、ここで記載する更新時期の目安は、適切に定期点検が実施され、機器の設置環境に支障のないことを前提とした目安です。
自動火災報知機設備
自動火災報知設備の交換時期の目安は10~20年となっています。
各設備の交換推奨年数を見ていくと、受信機や発信機、地区音響装置は20年、受信機の中でもR型等、電子機器部品を多用している機器や熱式感知器は15年、煙式感知器や半導体式の熱式感知器は10年とされています。
自動火災報知設備 定期交換推奨年数
受信機 20年
受信機 15年
(R型等、電子機器部品を多用している機器)
発信機 20年
煙式感知器 10年
熱式感知器 15年
熱式感知器 10年
(半導体式)
地区音響装置 20年
自動火災報知設備の一部は、法改正、型式失効制度等により定期交換・設備の更新が義務付けられています。火災時に正常に設備が機能するよう、設置から一定期間を経過した場合や交換推奨年数を超えている場合は交換することをおすすめします。
自動火災報知設備に使用している電気部品
自動火災報知設備に使用している電気部品の交換時期の目安は3~6年となっています。
自動火災報知設備・総合操作盤の部品 定期交換推奨年数
スイッチング電源 5年
無停電電源装置(UPS)本体 6年
ニッケルカドミウム蓄電池 5年
シール鉛蓄電池(UPS用を含む) 3年
CRTディスプレイ 4年
LCD(液晶)ディスプレイ 5年
プラズマディスプレイ 5年
ELディスプレイ 5年
ハードディスク 4年
フロッピーディスク 5年
冷却ファン(UPS用を含む) 3年
プリンター 5年
上記の電気部品・ユニットは、一般の電気機器と同様に時間の経過とともに劣化していくため、予防保全の観点から定期的に交換することが必要です。
非常警報設備
非常警報設備の交換時期の目安は15年となっています。
火災時に正常に警報設備を作動させるためにも、使用年数が15年を超えている場合は定期交換しましょう。
排煙設備
排煙設備の交換時期の目安は、防火戸用ロックが7~8年、連動操作盤20年となっています。
火災発生時、延焼や煙の拡散を防止できるよう、防火戸用ロックや連動操作盤の交換推奨年数を超えている場合は交換することをおすすめします。
消火器
消火器の交換時期目安は8年となっています。
火災発生時の初期火災において、安全かつ確実に消火を行なえるよう、損傷している場合や交換時期の目安を過ぎている場合は交換しましょう。
消火用設備等の不良によって起こるトラブル
消火用設備等は人々の命ひ直結する重要な設備であるため、異常や不備が見つかった場合にはすぐに対応しましょう。
ここで、消火用設備等の不良によって起こるトラブルについてご紹介します。
火災時に設備が正常に機能しなくなる
消火用設備等の不良を放置していると、火災が発生したときに設備が正常に機能せず、火災の発見やその後の対応が遅れ、大きな被害につながる恐れがあります。
そのため、消火用設備等は正常に機能するか、損傷がないかを定期的に確認する必要があります。
警報設備の誤作動が起こる
感知器や電気回路の不具合(故障)等トラブルが発生すると、誤作動の原因になることがあります。
誤作動が頻繁に発生すると、警報が鳴っても誰も火災だと思わなくなり、次第に警報に対して無関心になってしまいます。その結果、実際に火災が発生しても火災だと認識せず、初期消火、通報、避難が遅れ、被害が拡大する危険性が高まります。
また、一部の事業者等に設置されている自動的に119番通報が行われる自動火災報知設備が作動すると消防隊が出動します。しかし、誤作動による出動が増えると、ほかの災害対応や救急対応に支障をきたす可能性もあります。
そのため、警報設備は定期的に点検を行い、正常に機能するよう部品交換や設備の更新を怠らないことが重要です。
消防用設備等のトラブルを放置してはいけない理由
消防法第17条に基づき設置された消防用設備等については、防火対象物の関係者に対して適切な設備、及び点検・維持管理が義務付けられています。
また、2020年の民法611条改正により賃貸物件において故障等で設備が使用できなくなった場合、賃料の減額対応や賃借人は契約を解約できるとされています。これに伴い、もし賃借人から設備故障の申し出があった場合は賃貨人であるオーナーは賃料減額を行うほか、故障した設備を修繕しないとテナント解約や新規テナントが集まらない可能性があります。
さらに、管理会社にとってはオーナー・賃借人・現場作業への対応工数が増加することで、人員不足や担当者の業務負荷、従業員満足度の低下等さまざまなリスクが考えられます。